歴史の大きな動きの中で、土とともに生きてきた人間の暮らし


人間の生命維持には、健全な 「土」 が必要不可欠。

1979年、アメリカの生物物理学者ジェームス・ラブロックは 「地球生命体 (ガイア理論)」 という考え方を発表した。その内容は 「地球はそれ自体が大きな生命体である。すべての生命、 空気、 水、 土などが有機的につながって生きている。 これをガイアと呼ぶ」というものだ。

この理論によると、 地球は空気がなくなっても、水がなくなっても、 土がなくなっても生命体としての機能を維持することができない。 これらさまざまな要素の絶妙なバランスの上に地球は生命体として維持されているのである。 そうした地球から生まれた人間も、当然のことながら生命維持成分の驚異的なバランスのもとに健康な生を享受している。 では、その生命維持成分は何から摂取しているのだろうか。 それは食事だ。 5大栄養素と言われる炭水化物、 脂質、タンパク質、ビタミン、ミネラルは、そのほとんどが食事から摂取されている。 そして、その食事の基となる肉や野菜などはすべて土から生まれているのだ。 食物連鎖は、 草食動物が大地に青々と育っている植物を食料とし、 肉食動物が草食動物を食べる。 そ
して肉食動物の糞や死骸が土に帰り微生物により分解され植物を育てる。 こうした連鎖の中で地球に生きる生物のバランスがうまく保たれてきた。

牛にしても豚にしても植物を栄養源としている訳だから、 人間が食料とするすべての物は土が育てたとも言えるだろう。 魚は海だというかもしれないが、海の栄養分も元をただせば土壌の栄養分が河川から海に流出し、 プランクトンや海藻を育てた結果だ。 昔の漁師は 「森が魚を呼ぶ」 と言っていた。 だから、人間は土なしで生きていくことは不可能といえよう。 しかも肥沃な土でないと植物は健全に育たない。 人間の健康な生命維持には、養分をたっぷり含んだ肥えた土地が必要ということになる。

ところが、 現在の土はほとんどが病んでいる。 農地は大量の化学肥料や農薬、除草剤などにより疲弊し、 それに加えて大気汚染や酸性雨などの環境汚染が森や山にも追い討ちをかけている。ましてや福島第一原発の事故により、日本全土が放射能で汚染されてしまった。 農地に限って言えば、 産出される野菜でも50年前と現代ではビタミンやミネラルの含有量がまったく異なる。 多くの現代野菜は、 昔に比べ栄養分を大幅に減らしているのだ。 なかでもミネラルは、もはや現代の土からでは人間の生命活動維持に必要な量を摂取することは難しいとさえ言われている。

昔から、人間は亡くなると 「土に帰る」という表現を用いてきた。 この言葉こそ、人間の故郷が土であることの何よりの証しではないだろうか。


古くから堆肥に代表される熟成物質の効能。

堆肥は、 昔から美味しい野菜を育てる天然の肥料として重宝されてきた。 しかしその堆肥も、最初から存在したわけではない。先人がいろいろな工夫を重ねた結果としての産物だ。 そうした農夫たちの必死の努力により、かつての土はいつも栄養分をたっぷりと含んでいた。堆肥はワラや落ち葉などを積み重ね熟成させて作った肥料で、 有機物が微生物によって分解されたものだ。 化学肥料と違い、 土に優しく肥料持ちがいい。 野菜などが土の中の養分をより吸収しやすくするため、ア
ンモニア、カルシウム、カリウムなどの陽イオンを保持する力を高めるからだ。

一般的に作物の生育に適した土壌は、 水もちと水はけのバランスのよい土壌と言われている。 水持ちがよすぎると土の中の通気性が悪くなり、 酸欠状態になってしまう。また反対に水はけがよすぎると、 水が供給されず作物を枯らしてしまうことになる。この一見矛盾した二つの条件を満たす土の構造を団粒構造といい、 この団粒構造は堆肥中に含まれる熟成物質が土の中の粒子を接着させることにより生まれる。

さらに堆肥の中には多種多様な熟成成分が含まれているため、土中のさまざまな化学的変化に対しての緩衝作用を持ち、安定した土壌環境を維持することができるのだ。

このように微生物の分解によって得られた熟成物質は、健全な野菜などの育成に大きな効果をもたらすものとして、現代農業では再び脚光を集めている。 そしてこの熟成物質は、人間の生命活動やエイジングケアにも大きく影響していることが研究者により明らかにされてきた。

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